写生地 尾瀬

ラジオから流れていた「夏の思い出」を耳にした。1988年夏の日、歌詞の美しさに澄んだ風光を知りたく国立公園尾瀬に早速スケッチに出掛けた。

 至仏山を主峰とする尾瀬ヶ原湿原と最初の出会いでした。それはそれは景観美と静けさに感嘆し強烈な印象を受けた。

 燧ケ岳を主峰とした尾瀬沼の神秘的静寂さにタメ息がで、まさに尾瀬との出会がはじまった。そしてそれまでの作画に対する向きが一変した。四季折々不思議で静穏な景観に満ちた尾瀬に立ち心の底にある内景に触れたような思いだった。

 自然美を惜しみなく訪れる多くの人々に感動を与え誘い入れ、詩情あふれる尾瀬に今年も足を運ぶ。雪深い厳冬の尾瀬。水ぬるみ春を呼ぶように霧がたちこめる尾瀬沼

 季節を追うように、みどり萌え高山植物の宝庫に心地よい風わたる尾瀬ヶ原。夏雲湧く湿原に、うす紫の花が咲き始めるころ、小道行き交う人気も疎らに色づく紅葉の訪れは静けさの世界に尾瀬の姿を見る。

 枯れはてた湿原の池にさざ波が立ち肌に受ける冷気は心までも洗い、スケッチした充実感にひたる時、心の奥にある自分を探し少しでも近づけたらと思う。

 尾瀬を画題にした初の作品は第43回展出品の「水ぬるむ」でした。

以降四季の変化を追いスケッチに通うごと、尾瀬は不思議な魅力を深めてくれる朝夕の静けさ、気候の変化、季節の花々などなど、どれを取っても心に響く写生地と思う。

 第59回示現会展作品は「日輪」でした。

 

「日輪」 F120 2006年

 

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