景観だけに目を向け、表面の面白さや物の説明に固執し描いていた絵はどうも退屈でやせて見え、きれいごとに努めていたようだ。落筆点蠅ごとき絵には驚きを感じ探求心に迷い込んでいた時があった。自然をいかに心の内にふれ自分の自然を描きたいと思っていたころ尾瀬と出会った。
四季折々の表情豊かに訪れる人々を魅了する高層湿原帯と湖沼の尾瀬国立公園(福島・栃木・群馬・新潟の四県にまたがっている)は先人たちによって紹介され、その魅力と感動を求める全国からの探勝者で賑わっている。
通うごといつもの静寂と清冷な気配にその詩情の深さを感じ、美しさに包まれた雄大さの中に繊細な情景を創り出す魅力は、はなさない。すがすがしく神秘的な美しさに心洗われる思いと安らぎさえ感じさせてくれる。この大自然から何を求め引き出したいのか、表皮の面白さや形を写している場合ではないと足を運ばせる尾瀬。
詩情豊かに酔えるのも尾瀬が語りかけ誘ってくれるからで、もっともっと秘められた深い本質の姿に触れてみたいし、教えてもらいたい。自然の変容ほど心を動かすものはなく、心の奥にある動きによって自然を求め、目に見えぬ心の内にふれたい。通い続け、歩き続け尾瀬をもっと知りたい。
なぜ、そうさせるのかいつも不思議を感じる。この美しく厳しい大自然こそ我が師で詩趣がわく、多彩な姿に変え招く秘境の地、植物の宝庫であり太古のまま原始林に残る貴重な大自然の宝庫だ。
テーマにした43回展「水ぬるむ」以来62回展で20年になる心に残る画因に接したい。